日本三大美林に数えられる青森ヒバと、青森県内で国際熱核融合実験炉(ITER)関連事業を進める原子力技術とのコラボレーション(連携)で、画期的な水虫撃退法が開発された。放射線照射で分子構造を破壊したセルロース(樹木の主成分)のシートに、殺菌力のある「ナノヒバ油」を染み込ませ、はり薬として使うことができる天然由来の新技術。従来の薬のように噴霧や塗布で汚れず、1枚はれば、効能は約3週間は続くという。他の分野への応用も可能で、現在、特許申請中だ。
ヒバ油の商品化を進める青森県が2006年4月以降、原子力の先端技術を持つ日本原子力研究開発機構(茨城県東海村)と連携して開発に取り組み、実用化にこぎ着けた。地元の弘前大が、水虫を引き起こす白癬(はくせん)菌など6種類に効くことを確認した。
ヒノキチオールが含まれるヒバ油には強い殺菌力があるが、そのままでは粘り気があって使いづらい難点があった。このため、乳化剤を入れて水と混ぜ、超音波を使うなどしてかき回すことで、水とヒバ油が分離せず、サラッとした質感のナノヒバ油ができた。
セルロースは放射線で分子構造が破壊されると、内部が網の目状になるため、成形したシートの中に大量のナノヒバ油を閉じ込めることに成功。油のまま塗ったのでは揮発が早いが、シートに含ませることで空気に触れにくくなり、効能が約3週間持続できるようになった。
シートをはるだけなので手などを汚さず、今後の商品化次第では、究極の水虫治療薬ができる可能性がある。このほか保菌者のいる家庭向けのバスマットや靴の中の除菌剤など、周辺分野への広がりも期待される。
県工業総合研究センターの岡部敏弘研究調整監は「原子力県の青森で、その先端技術がヒバ油に高い付加価値をもたらした。商品化されて現代人の悩みに技術が活用されれば、青森から新しい産業を興すことができる」と力を込める。
日本原子力研究開発機構は「原子力はどうしても『怖い』というイメージを持たれてしまうが、生活レベルで貢献できる技術もある。異文化とタッグを組み、いい面を伝えていきたい」(産学連携推進部)と話している。
[青森ヒバ] ヒノキ科アスナロ属の針葉樹。木曽ヒノキ、秋田スギとともに日本三大美林の一つに挙げられる。青森県内では全国の8割に相当する約1300万立方メートルが生育。年間1%の割合で増えるため植林の必要がないのが利点で、県内では年約3万立方メートルが伐採されている。ヒバ油は木材重量の1%ほどで、年間約20トンが抽出されている。